2011年9月30日金曜日

PTCモデリング [16/19] TRIZプロセス レベル2: まとめ

 今回は17枚目の「スライド16」です:

 それでは、TRIZ適用プロセスのレベル2をまとめてみます。
TRIZを適用した多くの場合、あたかも「矛盾を抽出して方法論を適用し、アイデアを導き出して問題を解決した」ように見えます。
これは間違っているとは言えませんが、それがすべてではありません。
 
 このような発表だけを見ていたのでは、以下のようなことが起こる可能性が高いです:
 
TRIZではやっぱり矛盾が大事だね。
 矛盾を先に見つけて解決しなくちゃ。
 私も適用してみよう。
 あれ、矛盾が見つからない。
 物理的矛盾は見えやしないし、技術的矛盾は多過ぎるし。
 矛盾を見つけるのは諦めよう。
 うちの会社にはTRIZは合わないみたい。」

 既に申し上げましたように、実際にTRIZを適用した時の実像は次のようなものです:
 
「矛盾が見つからないな。
 しょうがないから、発明原理でも適用してみよう。
 あれ、いいアイデアが出た。
 会社で発表しろと言うから、パワーポイントスライドを10枚程度用意しなければならないな。
 TRIZで論理を構成しなければならないんだ。
 あれ、こういう矛盾が問題の核心だったんだ。
 こうすれば、10枚は簡単に書けるな。
 そうか、こういう物理的矛盾だから、時間による分離じゃなくて空間による分離からはこういうアイデアも出るんだ。
 こういうのを全部導き出して特許の請求項に入れてしまおう。」

 こんな感じで実際には作業したのですが、発表会場では結論だけを話し、
 
「矛盾を抽出し、方法論をこのように活用してアイデアを導き出してからこんな風に適用しました」

と説明するのです。

 先ほど申し上げましたように、ペーパーワークは、嘘さえつかなければ、視覚化により人間のミスを防止する重要な技法であり、デ・ボノ博士の水平思考のように、更に良いアイデアを導き出す創造的な作業プロセスです。
 私が提案するTRIZ適用プロセスのレベル2は以下のようなものです:
 まず、矛盾を見つけることに注力します。
 たくさん時間をかけて入念に問題を分析したら容易に見つけることができるかも知れませんが、ほとんどの場合、重要な矛盾を一気に見つけることはできません。
 こういう時には諦めずに、まず発明原理と分離の原理を、ブレインストーミングをする感じで適用してみることをお勧めします。
 現代人であれば誰しも持っている考えに発明原理や分離の原理を適用してみれば、解決策が少しずつ姿を現し始めます。
このようにして些細な解決策でも導き出されたならば、何故それが解決策になり得るのか考えてみてください。
そうすれば、その時こそどんな矛盾があるのかを確信できるようになります。
このように矛盾を定義してからは、TRIZにより提示される方法論や技法に従って展開し、更に良いアイデアを導き出すことができるようになります。
 このやり方は、15年以上に渡って現場でTRIZを適用して大きな成果をあげてきた多数の企業における実態に対する私の経験に基づくものです。

2011年9月29日木曜日

PTCモデリング [15/19]  TRIZプロセス レベル2 ③

 今回は16枚目の「スライド15」です:

 ある質問が思い出されます:
 世の中にペーパーワークではないことが果たしてあるのでしょうか。

 実際、世の中に存在するほとんどすべての仕事において仕事と文書が別々になっています。
 職場での仕事というものはそのようなものではないでしょうか。

 以下の2つの条件さえ満たされば、ペーパーワークが非難される理由は無いと思います:

 1. 嘘をつかないこと
 2. 紙一枚に収まるような内容を2~3枚に引き伸ばさないこと
 
この二つの事項を守りさえすれば、ペーパーワークこそ真の仕事であると言えましょう。
 まず仕事をしてから、報告書を作成しているうちに視覚化され、見逃している部分を指摘されることで、次は更に改善された仕事ができるようになるのです。
 新入社員では仕事と文書の隔たりが最も大きく、30年以上のベテランでは両者がほとんど一致するようになります。

 一方、創造性の分野で名高いデ・ボノ博士の水平思考の核心過程は次のような順番となっています:
 
ブレインストー ミング → グルーピング → 概念 → 代替案
 
 そこで、まず、40の発明原理と分離の原理をブレインストーミングで適用してみます。
 この作業により導出された解決策を分析してみると、どのような矛盾が存在していたのか確信が持てるようになります。
 これが、グルーピングを介しての概念導出の活動となります。
このように確信を持って矛盾を導出するようになると、更に良い代替案を導き出すことができます。
 飛行機の車輪の問題を物理的矛盾として定義し、既に出たアイデアが時間による分離に基づくものである場合には、空間による分離から更に他のアイデアを導き出すことができないでしょうか。
 これが、デ・ボノ博士のいうところの代替案の段階です。
 多くの企業のTRIZユーザーは、実際にはこのような過程を経て社内でTRIZの適用を進めています。
 すなわち、アインシュタインが唱えたのと同じ筋道なのです。
 最初から矛盾を見つけ出したのではなく、まず発明原理を適用して解決策を導き出したからこそ問題を定義することができたのです。
 その上、このようにして矛盾を確信した後には、デ・ボノ博士の言うところの代替案段階のように、更に良いアイデアを導き出すことができたのです。
 多くのエンジニアがこのように仕事をしてきており、これをTRIZ適用プロセスのレベル2としましょう。

2011年9月28日水曜日

PTCモデリング [14/19]  TRIZプロセス レベル2 ②

 今回は15枚目の「スライド14」です:

 この問題を解決した人の同僚は、発表会場の裏で眉を顰めています。
  何故なら、それが真実ではないからです。
 発表者は、実際にはそのような形で作業していませんでした。
 同僚はそれを隣で見ていたので、眉を顰めて独り言を発するのです。
  「あれはペーパーワークだ」
 そうなんです。
 一般的に、ほとんどの状況で、それはペーパーワークなのです。
 多数のグローバル企業であげられたTRIZによる大きな成果は、このようなペーパーワークによる場合が多いのです。

 実際には、以下のような状況が繰り広げられていたのです:
 まず、TRIZの教育を受け、その理論の斬新さに惹かれます。
 多分、
TRIZほど強く惹きつける理論は多くはないだろう」
と思うようになります。
 そこで、自分の問題にもTRIZを適用してみます。
 あるいは、TRIZを適用すべき状況が訪れます。
 最初に問題の背景をまとめた上で、まず矛盾を見つけ出そうとします。
 TRIZとは、矛盾を導き出して方法論を適用し、矛盾を解決するものであると学んだからです。
 ところが、以前、「物理的矛盾が問題を定義する」と言いましたが、実は、問題を定義することが最も難しいのです。
それほど大事なものがそう易々と導き出せるはずがありません。
 
 アインシュタインは、
「問題を定義するなら、まず問題を解きなさい」
と言いました。
 TRIZを適用してみようと取り組み始めたエンジニアに、物理的矛盾はなかなか見えてきません。
 そして、技術的矛盾はあまりにも多く存在します。
 そのため、どの技術的矛盾を選択したら良いのか確信を持つことができません。
 あまりにも多い技術的矛盾、そして、見えない物理的矛盾。
 これが実際の状況なのです。
 従って、大多数の方々は、学ぶ時点ではすぐに理解できるものの、実際の適用は難しいという理由でTRIZの本を閉じてしまいます。
 恐らく、矛盾を見つけ出すことが難しいからでしょう。
 多くの人が諦めてしまう中で、一部の人は
「何が矛盾であるかは分からないけれど、発明原理と分離の原理だけでも使ってみよう」
という思いでTRIZを適用してみることになります。
 そうすると、実に良い結果が導き出されます。
数多くの現場で感じたことですが、矛盾はさておき、分離の原理や40の発明原理を適用するだけでも相当の成果を導き出すことができることを確信しています。
  さて、このようにして良い結果が得られると、企業ではこれを発表させようとします。
  社長を前にした発表となるため、10枚程のパワーポイントスライドを用意しなければなりません。
 そこで、彼は物語を作り始めます。
 学んだものはTRIZだから、TRIZに合わせて物語を作るのです。
即ち、
「何故14番の発明原理が適用されたのだろう」
と悩んでいるうちに、
「そうだ、TRIZ理論に合わせてみたら、これとあれとの間に技術的矛盾をがあるからだ。矛盾マトリックスともピッタリだ。」
と言いながら物語を進めます。
 ここに及んで、矛盾を見つけ出したのです。
 これによって矛盾を確信し、10枚のパワーポイントスライド作成のために理論を展開していくうちに、更に良いアイデアまで導き出されるようになります。
 結局、最終的には、
「このようにして矛盾を見いだし、方法論を適用し、発明原理を利用してアイデアを導き出し、問題を解決しました」
と発表することになります。
 こうして物語を作り上げて発表するため、隣で見ていた同僚から「ペーパーワークだ」と指摘されるようになるのです。
 これが、現場で実際によく見られる光景です。

2011年9月27日火曜日

PTCモデリング [13/19]  TRIZプロセス レベル2 ①

 今回は14枚目の「スライド13」です:
 それでは、このような基本知識に基き、私が考えるTRIZの適用プロセスのレベル2について説明します。
レベル2は、TRIZを導入した数多くの企業で実際に大きな成果が得られた実質的なプロセスです。
また、誰でもTRIZを学び、活用していくうちに経ることになる経験的なプロセスであり、TRIZを導入して大きな成果を上げたい企業がベンチマーキングできる基本的なプロセスでもあります。
 企業でTRIZを適用して大きな成果を上げた場合、その成果を発表する会場ではどのようなことが起こるでしょうか?
殆どの発表者は、「矛盾を抽出し、TRIZツールを用いてアイデアを導出・適用して問題を解決しました」と言うでしょう。

 具体的な例を挙げてみると、以下のようになります:

「まず、問題は以下の通りです。次のスライド。
 このような問題から、技術的矛盾を見出すことができました。次のスライド。
 39個のパラメータの中から、改善するパラメータと悪化するパラメータを選びました。次のスライド。
 矛盾マトリックスを活用し、24番と14番の発明原理を選びました。次のスライド。
 14番の発明原理を適用し、このようなアイデアを導き出して問題を解決することができました。次のスライド。
 成果金額は○○円、特許出願件数は××件であり、他の現場にも水平展開する予定です。
 ご清聴、ありがとうございました。」
 企業に長く勤めている人ほど、方法論やコンサルティングに対して批判的になる可能性が高く、それが本当にTRIZを用いて行われたものであるのか、それとも、普通のやり方で出したアイデアをペーパーワーク(paper work)で行ったのか調べてみようとします。
しかし、TRIZの場合、その理論が明確でその成果が優れているため、TRIZで出たアイデアであることを疑うことがほとんどありません。
 また、社長が一番喜びます。
これほど良いアイデアがプロセスを介して体系的に導き出されたからです。

 でも、果たしてこれは真実なのでしょうか?

2011年9月26日月曜日

PTCモデリング [12/19]  PTCモデリングとクラシカルTRIZの間の対立? ②

今回は13枚目の「スライド12」です:
 では、技術的矛盾を解決した2万件の特許はどのような意味を持つのでしょうか?
  その答えは以下の通りです:

  技術的矛盾を解決したように見える人は物理的矛盾まで見出すことができなかったのです。

  その人は何故、物理的矛盾に到達することができなかったのでしょうか?
  神ではなかったからです。
  エンジニアリングの領域で神の立場に立つことができなかったからです。
  その結果、自然の因果関係を把握することが容易ではなかったため、問題の核心である物理的矛盾にまでは到達できなかったのです。
  問題自体に対する経験や知識が足りず、充分な分析を行うことができず、問題を把握することができなかったのです。
  ただ単に、相反する要求や機能を列挙しただけなのでした。
  問題の原因を把握することができなかったため、あれこれ方法を使ってみているうちに問題が自然に解決されてしまったということです。
  ちょうど、赤ん坊が泣いている時に、その原因が分からず、お菓子を与えたり、おんぶしたり、おむつを替えたりしてみているうちに泣きやんでしまったのと同じような状況です。
  赤ん坊が泣いていた真の理由を知らなかったのです。
  ただ単に、「赤ん坊をなだめられない」、「演奏会では静かにしていなければならない」、という2つの事象が対立していることを明確に認知していただけなのです。
  しかし、ビジネス分野では状況が異なります。
  仮に、政治、外交、経済、購買、総務など、技術的ではないあらゆる分野をビジネス分野であるとします。
  このようなビジネス分野では人間が主役となります。
  従って、ある社会現象が発生すると、何故そのような状況が発生したのか、色々と工夫しながらその因果関係を推理し、どのような因果関係により、次にどのような事象が発生が発生するのかを容易に予測することができます。
  自然現象やエンジニアリング分野に比べて容易であるということです。
  人間は、人間をよく理解できます。
  眼差しを見ただけで、どのような因果関係、あるいは、どのような力関係があるのかを読み取ることができます。
  従って、相対的な観点から見ると、神のような立場にあるのがビジネス分野であると言えます。
  でも、エンジニアリング分野は違います。
  例えば、プロジェクターの寿命を延ばすという課題があったとすると、プロジェクター内の熱がどこで発生し、どのようにして放出されるのかを知っていなければなりません。
  プロジェクターを一生懸命眺めるだけでこのようなメカニズムを知ることができるのでしょうか。
  人間が自然を相手にコミュニケーションするためには数学が必要となります。
  流体力学や機械工学の数学知識でモデルを構築した上で実験し、研究することによってのみ充分に因果関係を把握することができます。
  この点が、エンジニアリングTRIZとビジネスTRIZの最大の違いです。
  ビジネスTRIZでは、問題の分析が遥かに容易であるということです。
  物理的矛盾を見つけ出すまでの過程がとても容易なのです。
  ARIZは、エンジニアリング分野において、技術的矛盾から物理的矛盾を見つけてゆく過程です。
  ARIZPart 1.1 は技術的矛盾の説明でありPart 3.4 は物理的矛盾を見つけ出すための核心的部分です。
  ここまで、Classical TRIZ PTCモデリングの理論が対立しないことを説明してきました。